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  ゾーヤ ストリート

ビデオゲームの翻訳に適している表現は?

日本のビデオゲーム界での批評・評価を英語に翻訳する場合において、「面白い」という言葉は “fun”と翻訳される場合と、“interesting”として翻訳される場合があります。「楽しい」という言葉も “fun”と訳されることが多いのですが、この言葉は実際、“enjoyable”という意味合いに近いと言えるでしょう。この様に、どの言語でも、似たような意味をもつ言葉が多いために、言葉一つで全体の印象が変わってしまう可能性もあります。

英語で書かれたゲーム批評やゲーム研究においても、“fun”という言葉に関してかなりの懸念が目立ちます。“fun”という言葉は、本当に役に立つ言葉でしょうか? この言葉を使わなくなったら、伝えたい内容が薄れてしまったり、何か失われてしまうでしょうか?

“Fun”というのは、ある種の喜びを表現する曖昧な言葉として理解される場合が多いでしょう。ゲーム業界においてこの表現が使われるのは、大抵がゲーミングというのが主に男性中心の商業文化だという思い込みにつながっているからだと言えます。しかし、ゲーム制作者側がゲームを“fun”にする要素にもっと集中すべきだという開発者たちの意見は、確かに一理あると思います。

これらの言葉は、人々が自分たちの好き・嫌いなゲームについて意見を述べるうえで一般的に使われるものであり、その完全な意味合いをここで説明するのはとても難しいです。概して、ゲームの価値判断を書く場合には(ゲームの批評分析を書く場合とは対照的に)、4つの言葉(大きく分けて2分類でそれぞれが2つの言葉を含む)が使われます。

面白い(形容詞)fun, interesting; つまらない(形容詞) unappealing(魅力がない), uninteresting(興味を引かない)
楽しい(形容詞) fun, enjoyable; つらい(形容詞) tough(きつい、厳しい), harsh (辛辣、手厳しい)

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「面白い」というのは、ただ単に英語の直訳通りの意味合いではなく、むしろ、そのゲームが過去の体験に訴えかけるから「面白い」のだと説明できます。普段から「面白い」を“interesting”として翻訳する人は特にこの意味合いを念頭に置く必要があると思います。

私にとって、“interesting”という言葉は、普通とは違う、あるいは予想外の展開をもたらすゲームに対して使われている場合にしっくりきます。この違いは言語のギャップによるものと思いたいですが、“interesting”という言葉の完全な意義は「面白い」では説明しきれるものではありません。

「つまらない」は単に“boring”として翻訳することができますが、実際にはもう少し具体的な意味も含まれます。「つまらない」は通常、「面白い」の反義語として理解されていますが、同時に「楽しい」ものにもなり得ます。ゲームというのはシンプルすぎたり、後退的(キャラクターやストーリーライン、セッティングなどが成長しない、1次元的で形式的なゲーム)であったりすると「つまらない」ものです。しかし、ゲームの基本的アイデアや外観イメージがあなたには魅力的だと感じなかった場合でも、いざそのゲームをプレイし始めてみてそれが「楽しい」ゲームであると感じるかもしれません。つまり、「つまらない」は“unappealing”(魅力がない)、または“uninteresting”(興味を引かない)なのです。

Flappy Birdは、「つまらな楽しい」のとても良い例だと思います。見た目はシンプルですが、いざプレイし始めるととても楽しいゲームです。

一方「楽しい」と「つらい」はより基本的な感情を表現します。「面白い」ゲームであるために必ずしも「楽しい」ものである必要はありませんが、両方を兼ね備えるゲームもあります。「楽しい」というのは、衝動的な感情です。「うわ~」と驚きの楽しさを与えてくれるゲームもあれば、あなたの興味を引いて夢中にさせるゲームもあります。

「つらい」は「楽しい」の正反対の単語で、“tough” または “harsh” を意味します。デベロッパーは「面白い」ゲームに取り組む際、既存のパターンに新たな工夫を加えるため、「面白い」ゲームの多くは「つらい」ゲームにもなります。ファーストパーソン シューティングゲーム(主人公/第一者の視点でゲーム内世界を進んでいくシューティングゲーム)はこの2要素を持ち合わせた「面白つらい」もので、1980年代から1990年代初頭のプロのアーケードゲーマーたちが特に好んでプレイしていたゲームです。

“Fun”という言葉は、持前の才能なしでは二流レベルでさえもプレイできないような非常に難しいゲームを表現する際に使うことはできますが、「楽しい」という言葉はこのようなゲームには適用できません。これは、この言葉がどのような文字で書かれているかを見れば、頷けると思います。この言葉には「楽(らく)」という文字が使われており、その漢字自体には、簡単でリラックスできる楽しみという意味が含まれているからです。

ゲームからは他にも沢山の楽しみを得ることができます。ゲーマー文化の中心では「面白つらい」ゲームに対してある種の文化的ステータスができており、そのステータスは上がる一方ですが、だからと言って必ずしも「つまらな楽しい」ゲームが良くないというわけではありません。

ゲーミングにおいては、苦痛な要素を持つゲームを非難することのない、楽しみと痛みの相互関係というものが存在し得ると思います。良いゲームを作成するには、そのゲームの体験が「つまらない」または「つらい」ものとなり得る可能性を無視してしまう必要はないのです。このような苦痛面があっても良いのです。良いゲームであるために「面白い」と「楽しい」の両面を持ち合わせる必要はありません。

ただし、ゲームすべてが“fun”または“interesting”である必要はないのだということを理解したうえで、“fun”を、場合に応じて相互作用または反作用する異なる種類の楽しみ(pleasures)と苦痛(pains)に分けて考えることで、色々と得られることがあると私は思っています。


この記事は、Gengoトランスレーターから寄稿されたブログです。

ゾーヤ ストリート
著者
ゾーヤ ストリート
Gengoトランスレーター。フランス語から英語、日本語から英語への翻訳を専門。現在では、Silverstring Mediaの編集長として、プレイ、ゲーム、ソフトウェア関連の記事を担当。

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